まつむらまいさん【絵本作家インタビュー】 絵本でもアニメでも楽しめるキャラクターを

まつむらまいさん

『ちびっこ みならい サンタのタンタ』を手がけたのは、今注目のアニメーション作家・まつむらまいさん。

光と色彩あふれる作品の創作の秘密、そして同時制作のアニメについてお話をうかがいました。

*『サンタのタンタ』ミニアニメをご覧ください。

 

banner_700_150_pikkapikaehon

■小1の甥っ子の姿から生まれた「タンタ」

クリスマスをテーマにした絵本の主人公を考えていたときに、小1の甥っ子の顔が浮かびました。というのも、彼は何をやってもすぐに「無理!」というのが口癖なんです。そう言いながら、実はやりたい気持ちがあったりするので、周りの大人たちはなんとか調子に乗せてやらせるという(笑)。

主人公のタンタは、りっぱなサンタさんになるために修行に励むがんばりやさん。いっぱい失敗もするし、たくさん弱音も吐くけれど、困っている人がいたら助けてあげる優しい子、というのがお話の軸になりました。

おじいさんサンタたちがタンタを見守っている姿は、甥の日常にそのまま重なります。私の姉は実家近くに住んでいて、甥は祖父母や叔父叔母たちによく面倒をみてもらっているんですね。それを見ていると、子どもは大人たちに見守られて成長していくのだなあと実感します。でも自分が子どものときにはそのことに気づかないので、絵本に描きたいと思いました。

■絵本と同時に、ミニアニメも

今回は絵本と同時にミニアニメをつくることも考えていて、タンタが動いたときにかわいく見える要素も入れています。見習いサンタの子なので、衣装の袖をダボダボにしたり。帽子のポンポンにしても、それが揺れたりすることによって、喜んでいるんだなとか、感情が表現できます。

ちなみにタンタは“あかいろくつした”をなかなか見つけられませんが、絵をよく見るとどこかにあるので、探してみてください。

■創作は下絵から完成まですべてコンピューター

私がアニメーションに興味を持ったのは、漠然と“ものをつくる仕事がしたい”と思って入った大阪芸大の授業がきっかけでした。

初めてクレイアニメで架空の商品のCMをつくったときに、実写の映像に比べてアニメは少人数で制作できるとわかって、早速、父が買ってきたパソコンでアニメをつくり始めたんです。そこで「これはおもしろいかも!」と思ったことから、創作の世界が広がりました。

実際に、今回の絵本も下絵から完成まですべてコンピュータで作っています。絵を切り抜いたり貼ったりするのもやりやすいですし、私の場合、ベースの色を塗った後に、さまざまな柄を貼って重ねて、色調整などの加工をするのですが、それはデジタルだからこそ、できること。

■オーロラの光を表現するための工夫

たとえばオーロラのシーンは6種類の柄を重ねていますが、これが結構、地道で大変な作業なんです。陰影をつける段階になって、ようやくゴールが見えてくる(笑)。最終的に影をつけることで光が感じられて、立体感のある絵になります。

陰影と立体感を出すことは、創作する上で常に大切にしていることでもありますね。自分が納得できるまで、何度でもやり直したり試行錯誤できるのは、デジタルの良さだと思います。

■絵本とアニメは全然違うよさがあるんです

絵本をベースに「タンタ」のミニアニメをつくるにあたっては、絵本の導入になる内容にしたいと思いました。そして今回、絵本とアニメを同時につくって感じたのは、2つは全然違うけれど、それぞれのよさがあるということ。

絵本は好きなページを好きなだけ見ていられますし、匂いや空気といったものを想像する楽しみがある。読む側の自由度が高いのが魅力だと思います。

逆にアニメはキャラクターと一緒に、流れている時間の中に入り込んで見るもの。映像に引っ張られて、ゴールまで一気に行けるおもしろさがありますし、音楽や声など要素が増えるのも楽しいですよね。ただ、私もアニメをつくっているからこそ、何でも動かせばいいわけではないなって思うんです。

最近はデジタル絵本も増えていますが、紙の絵本の手触りが私は好きですし、アニメにするからには動かす理由があるべきだと。絵本では読者が自由にキャラクターを動かしてもらい、アニメでは“私ならばこのキャラクターをこう動かしますよ”というのを見せたい。絵本とアニメ両方で、かわいいな、楽しいなと感じてもらえる作品をつくっていきたいです。

(撮影/細川葉子 取材・文/宇田夏苗)

ぴっかぴかえほん
『ちびっこみならい サンタのタンタ』
作/まつむらまい
2017年11月8日発売・小学館刊

(詳細は、こちらのページをご覧ください)

 

まつむらまいさん

Profile・松村 麻郁
1979年大阪府生まれ。大阪芸術大学映像学科在学中にアニメーション制作を開始。卒業作品で学長賞、2003年に発表した「カッポロピッタ~まんまくいねい~」は国内外で各賞を受賞。主な作品に食育がテーマのTVシリーズ「魔法食堂チャラポンタン」(全13話DVD発売中)、NHK・Eテレ「シャキーン!」のクイズコーナーなど多数。絵本に「ショボリン』(文・サトシン/小学館刊)がある。chava-doron.com

【絵本作家インタビュー】リスト

banner_700_150_pikkapikaehon

【関連記事】

まつむらまいの絵本『ちびっこみならい サンタのタンタ』
小さなサンタ、タンタの成長を描くクリスマス絵本。 はじめてのチャレンジ、上手くいかないことがあっても、あきらめずに、勇気とやさしさをも...
子どもはやっぱ、遊んでないとダメですよ【絵本作家インタビュー】長谷川義史さん
ゲラゲラ笑えるようなナンセンスな絵本と、平和を考えるようなまじめな絵本のどちらも数多く作り出してきた絵本作家・長谷川義史さん。 長谷川...
個性的な恐竜たちの姿を楽しんでもらえたら【絵本作家インタビュー】たしろちさとさん
人気の恐竜もマイナーな恐竜も、みんなそれぞれ個性があって、とても楽しいストーリー。 版画やコラージュの画法が醸し出す独特の空気感が魅力...

注目の絵本

お知らせ

注目記事

  • 『おふとんさんとおはようのあさ』

    『おふとんさんとおはようのあさ』

    コンドウアキの「おふとんさん」シリーズ、待望の最新作! 【あらすじ】 やさしいぬくもりに包まれて、いつまでもいつまでも寝ていたい……。 本作は、お...

  • 『くろねこのほんやさん』

    『くろねこのほんやさん』

    本が大好きなくろねこが本屋さんを始めたら、お店が大人気に! 【あらすじ】 本を読むのが何よりも大好きなくろねこがいました。 家族のねこたちは、ロボッ...

最新記事

  • 『いっぴきおおかみとおほしさま』

    定価 1870円(10%税込) 発売日 2023.2.20 A4変形32ページ 星のまたたく夜の癒やしのファンタジー 【あらすじ】 ひとりで自由気ままに暮らしているいっぴきおおかみが...

  • 「ギガントサウルス」絵本シリーズが日本上陸!!

    ちびっこ恐竜たちの、ゆかいな毎日! 「ギガントサウルス」絵本シリーズ イギリス生まれの恐竜絵本「ギガントサウルス」は、本格的で迫力のある恐竜イラストが人気の、コミカルで愛嬌たっぷりのちびっこ恐竜たち...

  • 『ももちゃんのねこ』

    ペットを超えた家族の絆を描いた、奇跡の物語! 【あらすじ】 主人公のももちゃんは、幼い頃に子ねこのみゅうを拾います。 ももちゃんにとって、ねこのみゅうは、友達であり、大切な家族。 みゅ...

  • 『おふとんさんとおはようのあさ』

    コンドウアキの「おふとんさん」シリーズ、待望の最新作! 【あらすじ】 やさしいぬくもりに包まれて、いつまでもいつまでも寝ていたい……。 本作は、おふとんさんの中で眠るのが大好きな、はあちゃん...

もっと見る

SNS

小学館の児童書

ぴっかぴかえほん

小学館キッズ

人気記事ランキング